研究トピックス
2026.02.27

TRPチャネルを介した精油成分の作用

THREEホリスティックリサーチセンターでは、精油や心・からだ・肌にまつわるホリスティックな力や個性を日々探究しています。
今回は、精油成分とTRP(Transient Receptor Potential)チャネルの関係についてご紹介します。

  • TRPチャネルの研究

    わたしたちのからだでは、温度や化学物質などの刺激に対してTRPチャネルが感覚受容体(センサー)として働いています。
    TRPチャネルは、デビッド・ジュリアス博士とアーデム・パタプティアン博士が『温度と触覚の受容体の発見』によって2021年ノーベル生理学・医学賞を受賞したことで注目されました。このチャネルは、温度変化や化学物質などの刺激に応答して活性化し、その信号を神経系に伝えることで冷感や温感、痛み、かゆみといったさまざまな感覚の知覚に関与しています。また、生体内においては神経細胞のみならず、あらゆる細胞の主に細胞膜に発現しており、多種多様な刺激を受容するセンサーとしての役割を担っています。1)2)

  • 精油成分のTRPチャネルへの作用

    精油に含まれる成分であるテルペン類は、いくつかのTRPチャネルに対して作用することが報告されています。これにより、私たちは精油を「香り」としてだけでなく、皮膚や粘膜を通じて「温感」や「冷感」、「痛み」などの感覚として感じることができます。
    今回は温度感受性のTRPM8、TRPV3、TRPV4、TRPV1、TRPA1について、各受容体の概要といくつかの成分の作用についてご紹介します。

    TRPチャネルを介した精油成分の作用

    図. 温度感受性TRPチャネル1)

  • ❶TRPM8
    三叉神経節や後根神経節の一次感覚神経のうち小型の神経細胞に発現する受容体。28℃以下の冷刺激やメントール、1,8-シネオールで活性化します。メントールなどの存在下では活性化温度閾値が上昇する(より高い温度を冷たいと感じる)ことが知られています。
    その他、報告されている精油成分;
    カンファー…TRPM8を発現した細胞において、カンファーによって活性化することが報告されました。3)
    ボルネオール…TRPM8を発現した細胞において、ボルネオールによって活性化することが報告されました。4)

    ❷TRPV3
    表皮や口腔上皮のケラチノサイトおよび毛胞ケラチノサイトに発現する受容体。31℃以下あるいは39℃以下の温かい温度、カンファーやカルバクロールで活性化します。
    その他、報告されている精油成分;
    シトロネラール…TRPV3を発現した細胞において、シトロネラールによって活性化することが報告されました。5)

    ❸TRPV4
    表皮、血管内皮、軟骨などに分布し,感覚神経を含めた一部の神経細胞で発現する受容体。TRPV3同様、温かい温度で活性化することが報告されています。また表皮ケラチノサイトにおいて細胞間結合の形成や皮膚のバリア機能に関与していると考えられています。
    報告されている精油成分;
    δ-カジネン…分子ドッキング解析において安定して結合することが示唆され、またTRPV4を発現した細胞において、δ-カジネンによって活性化することが報告されました。6)

    ❹TRPV1
    表皮、感覚神経末端、脳、内臓などで発現する受容体。43℃以上の熱刺激のほか、カプサイシンによって活性化し、痛みを引き起こすことが知られています。TRPV1を活性化する刺激は相乗効果を示すことが知られており、例えば、熱々のカレーを食べるとより辛く感じるのは、熱刺激とカプサイシンの作用であると考えられます。
    その他、報告されている精油成分:
    オイゲノール:皮膚角化細胞においてTRPV1発現の増加、TRPV1活性化および脱感作を起こす可能性が示唆されました。7)
    メントール:熱刺激やカプサイシンによるTRPV1の活性を抑制することで痛みを抑制することが報告されました。8)
    酢酸リナリル:TRPV1を発現した細胞において、カプサイシン、酸、熱刺激によるTRPV1の活性を抑制することが報告されました。9)

    ❺TRPA1
    主に感覚神経に発現する受容体。17℃以下の侵害性冷刺激や辛味成分であるアリルイソチオシアネートによって活性化することが知られています。マウスやラットとヒトでは感受性に種差があるという報告もあります。
    その他、報告されている精油成分;
    ボルネオール…TRPA1を発現させた細胞において、ボルネオールはアリルイソチオシアネートによるTRPA1の活性を阻害することが報告されました。4)
    チモール…TRPA1を発現させた細胞において、チモールによってCa2+上昇と膜電位変化が誘導されたことが報告されました。10)

  • 最後に

    精油成分のTRPチャネルを介した作用を調査したところ、単一のチャネルだけではなく複数のチャネルを刺激することがわかりました。精油には100~数百種類の成分が含まれており、それらが複合的に作用することで単一成分にはない多角的なアプローチが可能になると考えられます。さらに複数の精油を組み合わせることによる作用は、無限の可能性を秘めているといえるでしょう。

参考文献

1) Eric R. Kandelほか編, カンデル神経科学. 第2版, メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2022
2) Tominaga, Journal of Japanese Biochemical Society 94(2) 236-257, 2022
3) Selescu et al., Chemical Senses 38 563–575, 2013
4) Luo et al., Journal of Ethnopharmacology 322, 2024
5) Li et al., Nature communications, 16 2728, 2025
6) He et al., Journal of Pharmaceutical Sciences 115(2) 104134, 2026
7) Ye et al., Heliyon 10, 2024
8) Takaishi et al., The Journal of Physiological Sciences 66(2) 143-155, 2016
9) Hashimoto et al., Biomedical Reseaech(Tokyo) 45(6) 217-230, 2024
10) Lee et al., The British Journal of Pharmacology 153 1739–1749, 2008